就職活動や転職活動において、「どの会社を選ぶか」は人生の方向性を大きく左右する重要な決断です。新卒・中途を問わず、多くの方が「この会社は大丈夫だろうか」「この先も安心して働けるだろうか」と悩むのは当然のこと。
そんな中で、企業選びの判断基準として押さえておきたい“2つの軸”について、今回は丁寧にご紹介します。
1. まずは「業界」を見よう 〜業界の構造が年収を決める〜
「どの業界を選ぶか」は、ある意味で「将来の年収レンジを決める選択」と言っても過言ではありません。なぜなら、業界ごとに利益構造やビジネスモデルが異なるため、そこで働く人の給与水準にも大きな差が出るからです。
以下に、主要な業界別の平均年収を簡単に整理してみました。
■ 製造業(全体)
• 平均年収:約500万~550万円
• 特徴:業種が多岐にわたり、大手と中小企業で年収に差があります。自動車・電機・機械などの大手製造業では600万円以上も一般的です。
■ 小売業(全体)
• 平均年収:約350万~400万円
• 特徴:業界全体として給与水準はやや低め。特にコンビニ・スーパー・アパレルなどでは300万円台が多く、管理職や本部勤務でようやく500万円台に届くケースが一般的です。
■ 製薬業(医薬品製造業)
• 平均年収:約700万~850万円
• 特徴:業界内でも高水準の年収を誇り、外資系企業や研究開発職、MR(医薬情報担当者)などは1,000万円に届くことも珍しくありません。
こうして見ると、業界の選択が将来の生活レベルや選択肢に大きく影響することがわかります。もちろん「やりがい」や「ライフスタイルとの相性」なども大切ですが、年収とのバランスは慎重に考える必要があります。
「それでも私は小売業がいい」と思えるなら良いのですが、業界構造として給与が上がりづらい現実を受け入れられる覚悟は必要です。
2. 次に「業績」を見よう 〜数字から会社の未来を読み解く〜
業界の特性をつかんだら、次に注目すべきはその会社の「業績」です。
特に注目したいのは以下の2点です。
• 過去10年分の売上と営業利益率の推移
• 同じ業界の複数企業(最低10社)との比較
なぜこの2点が重要なのでしょうか?
それは、業績を業界内で比べることで「その企業の立ち位置」や「成長力」「収益性」が浮き彫りになるからです。
◆ 営業利益率を見る理由
営業利益の“額”ではなく、“営業利益率(売上に対して何%の利益を出しているか)”を見ることがポイントです。
• 営業利益率が低い企業は、構造的にもうからないビジネスモデルの可能性が高く、将来的に給与が上がりにくい。
• 営業利益率が高い企業は、無駄が少なく、収益性が高いため、社員への還元や投資余力も大きい。
また、売上と営業利益率がともに伸びていない企業は、すでに成長フェーズを終えており、社内に新たなポストが生まれにくい環境であることが予想されます。つまり、出世のチャンスも限定的というわけです。
「借金ゼロ」は本当にいいことか? 有利子負債の見方
次に見落としがちなのが「有利子負債(借金)」の項目です。
多くの人は「無借金=健全」と捉えがちですが、必ずしもそうとは限りません。
• 無借金でも、将来に向けた投資をまったく行っていない企業は、保守的すぎて成長の芽がない可能性がある。
• 手元に資金があっても、設備投資や研究開発に回せない会社は、環境変化に対応できずに取り残されていく。
典型的な例として、キャッシュリッチだがリスクをとらない日本の大企業では、自社株買いに資金を回すことで一時的に株価を支えるケースが多く見られます。これ自体は株主還元として悪い施策ではありませんが、経営判断として未来への布石を打てていない可能性もあります。
特に不況時には、このような“舵を切れない会社”が一気に厳しくなることがあります。
最後に:企業を見るときは「数字」を味方につけよう
就職・転職を考える際、四季報やIR資料、決算書の数字に目を通す習慣を持つことは、今後のキャリア選択において非常に有効です。
企業の広告やイメージ、SNSでの口コミなども参考にはなりますが、客観的な「数字」はごまかしがききません。そして、ある程度の知識があれば、その数字は会社の実態や将来を語ってくれます。
補足:損益計算書と貸借対照表について
この記事では企業選びの入口として「業界」と「業績」に絞ってご紹介しましたが、今後はさらに深掘りして「損益計算書(PL)」や「貸借対照表(BS)」についても解説していく予定です。
これらの基本を押さえておくことで、「なんとなく良さそう」ではなく、「自分の目で選べる」企業選びができるようになります。
あなたの企業選びは、“感覚”ではなく“数字”に裏打ちされた判断ですか?
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