キャリアデザインを考える上で、まず最初に大切なのは「自分は何をやりたいのか」を明確にすることだと考えています。
けれど、やりたいことがはっきりしただけでは、キャリアはなかなか前に進みません。
その次に必要なのは、「これは絶対に負けない」という、自分だけの強い領域を作ることだと私は考えています。
たとえば営業職であれば、必ずしも全社で営業成績1位になる必要はありません。
特定の製品に対して深い知識を持ち、その領域では社内随一の成約率を誇る、そんなスペシャリストになる道もあります。
「この製品の案件なら、あの人に聞こう」と自然に声がかかる存在になること。
これこそが、キャリア形成における大きな強みとなります。
他の職種でも同じです。
たとえば会計の世界では、「原価管理」の領域で社内の第一人者となる。
建設業界の設計部門なら、CAD操作に圧倒的に精通しており、周囲から頼りにされる存在になる。
こうした「自分にしかできない」と自信を持てる分野を、一つでいいので確立すること。
それが、キャリアを築くための確かな一歩になるのではないかと思うのです。
少し言い換えると、社内やプロジェクト内で”市民権”を得る、という感覚に近いかもしれません。
それは単にスキルを磨くという話に留まりません。
自分の居場所を作り、自信を深め、さらに周囲を広く見渡す余裕にもつながるからです。
自分の領域を持つと、視野が広がる
ある分野で「第一人者」となり、社内で確固たるポジションを築くと、不思議なことが起こります。
自分の担当領域に精一杯取り組むだけでなく、チームや組織全体をどう良くしていけるか、自然と目が向くようになるのです。
例えば、プロジェクトが全体として円滑に進むために何が足りないかを考えたり、他部署との連携に気を配ったり。
自分の仕事だけに閉じこもるのではなく、より高い視点で物事を捉えられるようになります。
ここまで来ると、周囲からの信頼も厚くなり、小さなプロジェクトを任せられるようになったり、他の人の案件をサポートしてほしいと頼まれたりと、仕事の幅が広がり始めます。
こうした好循環が、次のキャリアステージへとつながっていくのです。
ですから、若いうちに転職を考えること自体は否定しませんが、どこかで一つ、「これだけは誰にも負けない」と言える自分の強みを育てることをおすすめしたいと思っています。
私自身の経験から
少し、私自身の話もさせてください。
私はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートしました。
特別な学歴があるわけでも、もともと才能があったわけでもありません。
けれど、「どんなに複雑なロジックでも理路整然と組み立て、すべてのテストケースを網羅し、絶対にバグを出さないプログラムを書く」という点において、自分なりのこだわりを持って仕事に取り組みました。
次第に社内でもその評判が立つようになり、困難なシステム開発プロジェクトにアサインされたり、新規開発の中心メンバーに選ばれたりする機会が増えていきました。
そこから、プロジェクトリーダーやマネージャーとしてチームを率いる役割も任されるようになったのです。
とはいえ、リーダーやマネージャーの仕事は、正直なところ簡単ではありませんでした。
プロジェクトが上手くいかなかったり、チームビルディングに失敗したり。
若いうちから大変な思いをたくさん経験しました。
ですが、そうした失敗も含めて、今振り返るととても大切な財産だったと感じています。
ひとつの領域で「誰にも負けない」と胸を張れるだけの経験を積んだからこそ、たとえリーダーとしてつまずいた時も、自分を見失わずに乗り越えられたのだと思います。
第一人者になることは、次のステージへの扉
社内で何かしらの領域で第一人者となることは、単に自己満足のためだけではありません。
「この人に任せれば大丈夫」という信頼を得ることができ、そこからさらに大きなチャレンジの機会が生まれるのです。
最近では、キャリアパスの多様化やジョブ型雇用の進展により、「スペシャリスト」として高く評価される人材像がより一層求められるようになってきています。
実際に、厚生労働省の調査でも、企業が中途採用時に重視するポイントとして「専門的な知識・スキル」が上位に挙げられています(※1)。
これからの時代、自分の得意分野を磨き、唯一無二の存在となることが、どんな働き方を選ぶにせよ、大きな力になるでしょう。
ですから、焦らず、じっくりと自分だけの「負けない領域」を育てていきましょう。
たった一つでも、自信を持てる武器を手に入れれば、キャリアはきっと力強く、しなやかに伸びていくはずです。
コメント