はじめに
ホーチミンでの3年間、オフショア開発の立ち上げという挑戦を終えた私は、日本に戻り、人生最後のシステムエンジニアとしての仕事に就くこととなりました。その舞台となったのが、文房具やオフィス家具で知られる大手企業「コクヨ株式会社」でした。
一見、安定した大企業。誰もがその名を知るブランド。ですが、そこで目の当たりにしたのは、表向きの綺麗な企業イメージとは大きく異なる、組織の内側に広がる“限りなくブラックに近いグレー”の実態でした。
本記事では、私自身の体験をベースに、企業の内情と働き方、そして下請け構造の問題点についてお伝えします。決して一企業を糾弾するためではなく、「こういう実態もある」という事実を通して、これからの働き方や就職・転職の判断材料にしていただければ幸いです。
マイナーベンダーから大手の現場へ:その序列の壁
私が参画したのは、コクヨ社内の情報システム部門における、保守運用プロジェクトでした。立場は、一次受けのさらに下層――いわゆる“孫請け”ポジションで、チームリーダーを任されました。
現場には、約10社以上のベンダーが一堂に会し、ひとつのフロアで作業を行っていました。しかしっ、その光景はまるで**「静かな監獄」**のようでした。空気は重く、社員もベンダーも常に緊張感を持って作業をしており、口数は少ない。目を合わせるのすら、どこか憚られる雰囲気。
コクヨの社員は、その空間の中で絶対的な支配権を握っており、ベンダー側はその指示に従うだけ。理不尽な指示でも反論は許されず、「問題を起こさないこと」が最優先されていました。
これが、**“恐怖政治”**と呼ばれてもおかしくない現場の実態です。
月100時間超えの残業と、鳴りやまぬ夜中の電話
業務は保守運用――つまり、トラブル対応と監視が中心です。
にもかかわらず、業務時間は明らかに常軌を逸していました。
定時は、22時
形式上は9時-17時の勤務でしたが、実態は22時退社が常態化。月の残業は100時間を超えることもしぃっちゅうありました。ただし雇用側の会社は残業込みという事になっており残業代は一切出ませんでした。これはマイナー企業あるあるですね。
休日? それも名ばかりです。土日もトラブル対応で電話が鳴り続け、自宅にいても気が休まりません。ある種、“拘束”という言葉がぴったりな働き方。精神的にも肉体的にも、消耗していくのが自覚できました。
このような状態が黙認されていた背景には、「誰かが壊れない限り、改善されない」という、組織的な麻痺がありました。
スパゲッティコードと十数年積もった技術的負債
技術的な側面でも問題は深刻でした。
過去10年以上にわたって開発されてきた業務システムは、明らかに設計不良が積み重なった“スパゲッティコード”状態でした。
何がどこで動いているのか、誰も全体像を把握しておらず、障害が発生しても原因の特定が困難。そんな中での保守運用は、もはや「火消し役」どころか「燃え盛る炎に薪を投げ込む作業」に近いものでした。
そしてこの複雑怪奇なシステムの上に、コクヨの社員たちはベンダーに対して強い態度を取り続ける。
「なぜこんな障害が起きたのか?」
「なぜ止めたのか?」
そんな問いが、深夜のMTGで静かに投げつけられる空気には、声に出せない圧力がありました。
社員もまた“被害者”だった
ただ、ここで誤解しないでいただきたいのは、すべてのコクヨ社員が横暴だったわけではない、ということです。
中途で入社された方々や、営業・経営企画の方々は、とても理知的で話しやすく、率直に現状への問題意識も持たれていました。ある方はこう漏らしていました。
「この会社は、限りなくブラックに近いグレーです。私もそろそろ潮時かと……あなたも気をつけてくださいね」
それは、脅しではなく、真摯な助言のように聞こえました。
また、年配の社員の方からもこんな言葉を聞いたことがあります。
「昔はもっと自由だったんだけど、気がついたらこうなってしまっていた」
現場で働く彼らもまた、ある種の“被害者”だったのかもしれません。
長年の慣習や閉塞的な組織文化、そして責任を恐れる構造が、彼らの動きを制限し、ベンダーへの圧力として表面化していた――そんな風にも見えました。
客観的なデータと「表」と「裏」の乖離
コクヨ株式会社は、外部の評価においては比較的「ホワイト企業」と見なされています。
たとえば「ホワイト企業ナビ」によると、
• 平均残業時間:約22時間
• 離職率:2.4%(全社平均)
• 年間休日:125日以上
と、数字の上では非常に健全に見えます。
(出典:ホワイト企業ナビ)
しかし、これはあくまで“本社勤務の正社員”の平均値であり、私のような外注エンジニアや地方ベンダーにはまったく当てはまらない現実でした。
口コミサイト「カンパニー通信」などにも、以下のような投稿があります:
「社内に閉塞感がある。業務内容に魅力を感じにくく、部署によって雰囲気がまったく異なる」
(出典:カンパニー通信)
こうした声が、私の実体験と一致する部分が多いのです。
学びとメッセージ:成長なき企業が抱える“内向き化”
この経験を通じて、私が強く感じたことがあります。
1. 企業の規模や知名度に騙されてはいけない。
2. 成長していない企業ほど、内向きの文化が強まり、組織が硬直化する傾向にある。
コクヨのような有名企業でも、売上が30年近く伸びていない現実があり、組織内に活力を感じにくいという側面があります。そうなると、上に向かうよりも「ミスを避ける」「怒られないこと」が優先され、結果として“誰も変えようとしない”環境が生まれるのです。
最後に:これから働くすべての人へ
この体験は、私にとって苦しい時間でもありましたが、同時に大きな学びでもありました。
「働きやすい会社とは何か」
「信頼関係とは何か」
「自分の時間と心を守るには何が必要か」
を深く考えさせられました。
皆さんには、どうか同じような苦しみを味わってほしくありません。
下請け・孫請け構造の厳しさ、成長なき企業のリスク、有名企業の“内実”――
そうした現実を知ったうえで、自分のキャリアを慎重に選び、納得できる道を歩んでいただきたいと願っています。
コクヨの現在の取り組みについて
私が経験した当時の労働環境と比較して、現在のコクヨは働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンの推進に力を入れています。例えば、フレックスタイム制度や在宅勤務の導入、育児・介護休暇制度の充実など、従業員の多様な働き方を支援する体制が整備されています【参考:コクヨサステナビリティ】。
また、コクヨは「Well-being」を重視し、従業員の健康とワークエンゲージメントの向上を目指す健康経営を推進しています。これらの取り組みは、過去の労働環境からの大きな変化を示しており、企業としての成長と社会的責任を果たす姿勢が伺えます【参考:コクヨサステナビリティ】。
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